来世について語る時に僕らが語ること

都営大江戸線で都心に向かう途中、新宿に着く頃に、乳白色のつるっとした表側の壁が目に入る。その裏側の鼠色の大きな凹凸のある壁には、湿気を帯びて黒ずんだほこりが時間をかけて塊になっている。僕はそこにいる。ショーウィンドウでは、地毛のくるくると…

過剰広告

口で言えば済みそうな注意書きが所狭しとそれも力強く張り巡らされている月島の銭湯に居た。女湯と男湯が交代制になっていて、1つには露天風呂が付いているが、もう1つには付いていない。こじんまりとしていて、5人も湯船に浸かれば溢れてしまうような場所…

英国退屈日記『クレーン車』

渡英する前に僕は幡ヶ谷に住んでいて、トモヒロという同居人がいた。幡ヶ谷には代々木上原に繋がる坂道があって、たまに自転車でどちらが先に上に着くか競ったりしていた。その坂の並びには、よく行く山盛りのカレー屋や、サンダーキャットのレコードが5000…

『高輪大木戸』

"お客さん寒くないですか。丁度は人でまちまちなものでね。最近は涼しくなってきましたし、身体を崩さないようにしないといけないねぇ。"確かにこの日の夜は少し涼しかった。品川の辺りで飲んでいた僕は終電をとうの昔に無くしていて、名は分からないが大通…

英国退屈日記『帰国』

シャインマスカットの佇まいが美しいと思えるのは味を知っているからか、それとも例え中身が酸っぱくとも美しいと思えるのか、そんなことをホテルの中で考えていた。恐らくこの果物が僕にとって一つの幸福と分かっているからこれは美しいのだろう。外見の美…

英国退屈日記『フランス人』

顔と顔を突き合わせて 2時間も3時間も全く実の無い話をしていれば それは間違いなくフランス人だろう。 鳩が身を竦めてごもごもとするそれに似ている。(断っておくが卑下している訳ではない。) アクセントに角が無く、 丸い音の紡ぎは僕にそれを連想させる。…

そこに愛はあるかい

かなりタイトなパリ出張を終え、引っ越しやビザの手配、日本に帰る準備にと、音が聞こえるくらいバタバタとしているうちに、いつの間にか26歳になっていた。この一年が怒涛のものになると、予想はしていたがそんなものではなかった。春夏秋冬が1日のうちにい…

コスモス

入道雲もとい高気圧ガールは影を潜め、代わりに靄のようなすーっと薄い雲がかかり、コスモスが顔を覗かせ始めた。雑草の中のそれに目を取られるのは、それが花然としていないからか。自意識が強いものは何者であろうが、美しくないという訳である。 去年の11…

英国退屈日記『タイミング』

全てのものにはすべからくタイミングがあって、年単位でのタイミングから、刹那で終わるタイミングまで、期間は様々である。中学の頃に所属していた、サッカークラブの監督(ハゲと言うと怒る)が、当時彼が書いていたブログで、確か言っていたのだが、"本にも…

1分未満

去年の8月に下見を兼ねて、ロンドンを訪れた時から、早くも1年が経とうとしている。パリに比べ近代的な建物も割とあるロンドンには、東京に似た雰囲気を覚え、親近感が湧いた。去年の日本の夏は、やたらめったらに暑く、遂には病院で点滴を打ったほどだった…

英国退屈日記『準備』

マニキュアのツンとしたシンナーの匂いと共に、パリに向かっている。チケットを取るのが遅くなってしまった為、向い合わせの席にイギリス人とアメリカ人の3人女子旅グループに相席という形になってしまった。彼女らはパリの地図を広げ、白ワインを片手に少…

英国退屈日記『美的感覚』

僕とした事が、ここ1ヶ月半くらい、やや行き詰まった感覚を覚え、なかなか抜け出せないでいた。行き詰まるも何も、何処にも行けてなどいないのだが、感覚的な話である。靴を磨いても、花を活けても、無論酒なんて飲んだところでも、樹林の晴れぬ靄の様なもの…

英国退屈日記『夏』

冬より夏の方が、簡単に季語を思い付くのは何故だろうか。甲子園に、線香花火に、市民プール、クーラー、玉置浩二に、真心ブラザーズ、スチャダラパーに、TUBE。玉置浩二の田園なんて夏の季語にうってつけである。その殆どが無いロンドンでは、相変わらずビ…

8キロ圏内

やたらと語尾にアクセントを付けたがる国、イタリアはミラノにいる。もう少し詳しく伝えると、両親と相部屋の、シングルベッドの3分の2くらいの、エクストラベッドのノリの効きすぎたシーツの上にいる。先週の中頃から、両親が僕の元を訪れており、せっかく…

拝啓

梅雨空で蒸し暑い日々が続く日本と聞いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。(謎の食欲不振、唐突な肌荒れ、隠し切れない足腰の衰えを除いて)僕は元気です。ロンドンでは、夏になりきれないなんとも歯痒い日々が続いており、僕自身も過去は捨てきれず、…

英国退屈日記『感性』

滑走路の赤色の灯が、右翼に吸い込まれては、また反対側から現れる。単調なリズムを急かす様に、前の座席の子供が泣き声を強める。赤い点で在ったものが線に代わり、遂には窓枠から消える。鮮やかだった光が消滅して見えなくなる。フィレンツェで4日間ほど…

大きなカマキリ

公園の近くに住んでいる公園じいちゃんは、 元々、祖父の仕事仲間で、血縁関係はない。 それでも小さい頃、よく遊びに行っていた。 まだ幼稚園くらいの僕相手に、 相撲をしてくれた。 僕は公園じいちゃん相手に相撲で負けたことがない。 いつもいつも頃合い…

1北野

元より飽きやすい性分である僕は、 趣味が多い。 全てが素人の域は越えず、 もしかすると趣味とは 呼べないのかもしれない。 しかしながら、高校1年の時に、 祖父に買ってもらった ミラーレス一眼から始まったカメラ、 ぼくの心臓同様(不整脈持ちなのである)…

ビタミンD欠乏症イギリス人

気候が国民性を形成する上で、重要な要素の1つであることは間違いないようだ。同じ英語(イギリス人言わせれば全くの別物だそうだが)を話すアメリカ人と比べると、イギリス人の目には輝きが乏しいのが、一目瞭然である。(目だけに。)アメリカは西海岸の、オ…

歌謡曲と白ワイン

"今週のベストテン第1位は、中森明菜で『DESIRE』"布施明の『君は薔薇より美しい』に並んで、ベストテンの中で1番好きな回である。しばしば、明菜か百恵かで意見が分かれる。確かに山口百恵の引退ライブで歌うさよならの向う側は涙を誘うものがあるが、昭和…

英国退屈日記『桜』

記憶があまりない。3月から今日までの記憶があまりない。朝に食べるクロワッサンと、昼のチキンカツ丼、入浴とは呼べない烏の行水で、なんとか日々のテンポを保つ生活を送っていた。元来要領は良い方で、何かにあくせくする事は無いのだが、最近は処理しなけ…

ストックホルム退屈日記〜ルージュの伝言〜

ルージュで伝言なんぞ残された日には生きた心地がしないなと思う。ましてや彼女が自分の母親に会いに電車に乗って向かっているなんて貞子が10人束になってかかっても敵わないくらい恐ろしい。そんなルージュの伝言が主題歌である、"魔女の宅急便"のモデルに…

二十億光年の孤独

人類は小さな球の上で眠り起きそして働きときどき火星に仲間を欲しがったりする 火星人は小さな球の上で何をしてるか 僕は知らない(或いは ネリリし キルルし ハララしているか)しかしときどき地球に仲間を欲しがったりするそれはまったくたしかなことだ谷…

The long and country road

1年のうちで2回ある、最も多忙な時期を今過ごしている。僕にしては寝食を惜しんで仕事に勤しんでいる方だと思う。嘲笑われているのか、歓迎されているのかわからないが、ロンドンには、早すぎる春が訪れている。記録を始めてから、最も暑い2月になっているら…

お茶しようぜ

"お茶しようぜ" 2017年から2018年にかけて、 おそらく最も発した言葉だ。 僕には沢山のティーフレンドがいる。 酒の場よりも、より慎重に、丁寧に、緻密に きちんと発する言葉を選んで、 やり取りが出来る為、僕は人をよくお茶に誘う。 とりわけその中でも、…

パリ退屈日記

この日記はしっかり書きたいと思う。 当時大学四年生であった僕は、第一志望の最終面接を受けるべく、 前日の夜から大阪に向かっていた。 着いた途端に具合が悪くなった。 理由は明快で、大阪が合わないのだ。 もちろん面接への緊張があったことは認める。 …

アムステルダム退屈日記

ノラジョーンズやキャットパワーが似合う街だったように思う。 機内から望む夕日のせいか。 実質1日しか滞在しなかった アムステルダムであるが、 何故か哀愁を感じずにはいられなかった。 当時勤めていた花屋の店長の兄が アムステルダムに住んでいると 聞…

ベルリン退屈日記

只今、ベルリン上空、 アムステルダムに向かっているところだ。 両耳にはめたイヤホンからは 美空のひばりの姉さんの 『人生一路』が流れている。 一度決めたら、2度とは変えぬ、と来たもんだ。 3泊4日、実働2日のベルリンを 終えた感想としては、 『ベルリ…

ロンドニアム ダブルベッド

一体、一生のうちに何個のベットに寝るのだろう。思い返してみれば、中学に上がる際に祖父に買ってもらったシングルベッドに皮切りに、クッションがたくさん置いてあるベッドや、下に収納の付いているベッド、製造過程で不備があったとしか思えないような底…

英国退屈日記:新聞

"こと未だ成らず小心翼々こと将にならんとす大胆不敵"何かを始めるときは周到に調べ上げ、大成しても油断することなかれといった意味の西郷隆盛の言葉だ。見切発車を1番の得意技としている僕としては耳の痛い言葉である。会津藩擁する福島県民としては、左翼…