英国退屈日記『Q&A』

ロンドンにも初夏のような季節がやっと訪れて、 風に揺れる木々の影や、 自分の背丈ほどあるカバンを引きずって歩く子供、 このままでは液体になってしまうのでは無いかと思うほどの脱力感で日に当たる猫など、 目に入る物が全て美しく見える とてもいい季節…

雑多な手記として

良い映画を観た後のような清々しい朝日を浴びたミラノのチェントラーレ駅の前で、まだ僕は眠い目をしている。 いろんなところへ行けて良いねとよく言われるのだが、基本的に自分のベッドに居る時間をいかに確保出来るかが人生の宿命のような生活を送っている…

アルコール度数6%のエッセイ7

料理家の土井善晴さんが好きだ。 彼は一汁一菜を提唱していて、 日々のご飯はご馳走でなくて良い。 具沢山のお味噌汁に1つおかずがあればそれでいいと言う。 おかずも時間が無ければお漬け物だって良いそうだ。 お米も食べる分だけ炊く。 手間を掛けなくて…

英国退屈日記『オイスターカード』

全くもって嫌になる、この手際の悪いことよ! 絶望的な要領の悪さである。 仮に人類を神が創ったのだとしたら、 これは正に欠陥工事である。 何に憤っているかというと、 欧米人の改札前での所業についてである。 日本で言うところのスイカ的なものがこちら…

アルコール度数6%のエッセイ6

“ほんの少し気合を入れて、鳥肌立ちそうな言葉を吐くって大切なのよ。そういう言葉が人付き合いを円滑にしていくの。” 今読んでいる本でそんなことが書いてあった。 この気合を持ち合わせていなかったが故に、 僕は一体どれほどのものを失って腐らせてきたの…

独善的な祈り、受動的な生死について

故人を思い出す時、天国にいる彼らの上には花が降るらしい。 仏壇のりんを鳴らす時、その音は彼らに聞こえているらしい。 全く独善的な考えだと思う。 もし天国に時間という概念があって、 深夜2時頃に顔の上に花が降ってきたり、 りんが鳴っては堪ったもの…

割愛

今年の書き初めは"割愛"にした。 思ったより4割くらいか細い字で、 左に斜行してしまった。 決意と呼ぶには程遠い字であった。 僕は割愛という言葉が好きで、 元来、惜しみながらも思い切って捨てるという意味だ。 なぜこの字にしたかというと、 昨年が蓄え…

英国退屈日記『何度目かのパリ』

信号を待っていると地下鉄の振動が足に伝わってくる。 僕の後ろをサンタクロースの帽子を被った子供たちが通る。 特大寒波に凍えるアジア人の僕は彼らにどう映っているのだろう。 正確には彼らには何も映っていないのだ。 今日で年内の学校を終えた彼らには…

アルコール度数6%のエッセイ5

僕は本を読む時に、そこに出てくる自分が知らない曲が好きだ。 今日はローズマリークルーニーという50年代のジャズ歌手とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番と出会った。 これらを掛けながらその本を読むと少し深く入り込める気がする。 かなりの偏読の為、出…

英国退屈日記『サウナ』

僕はいつもJALで日本とイギリスを行き来するのだが、機内誌がひとつの楽しみである。 その中に浅田次郎が連載している"つばさよつばさ"というエッセイがあるのだが、 いつだったか日本へ向かっている機内で読んだそれがサウナについてだった。 彼は昔から無…

アルコール度数6%のエッセイ4

友人の家からの帰り道、飲んだワインのせいで少し浮腫んだ足を無理やりブーツに捩じ込む。BoAもバレンチノのタイトなジーンズを履く時こんな気持ちだったのだろうか?(ではない) イヤホンを耳に嵌め、マルボロメンソールライトに火をつける。シャッフルで流…

英国退屈日記『日曜日』

日曜の朝、正確には11時半。 平日に日本と深夜の3時から打ち合わせさせられる僕からすると週末のこの時間は朝なのである。 このままビールでもあおってまた寝てしまおうかと思う気持ちを振り払って着替える。 ほぼ習慣化されたフラワーマーケットに向かう。 …

アルコール度数6%のエッセイ3

メモ帳を開いてとりわけ書きたいことないくせになにかしら意味ありげなことを生み出そうとしている。 旅するバックパッカーもこんな気持ちなのかなって思ったりもする。 年に2回、日本に帰ってくるわけで、 それと同じ数だけイギリスに戻る時が来る。 いちい…

日本退屈日記

初台と西新宿五丁目の真ん中あたりに部屋を借りている。 1年の間で僕は4ヶ月くらい知らない枕で寝る。 そのうち大体は東京で、あとはパリとかミラノとかの枕が4個くらいついているベッドである。 初台のマンションには乾燥機が付いてなくて、歩いて7分くらい…

アルコール度数6%のエッセイ2

赤坂駅から歩いて3分くらい、 僕の家からだと歩いてオフライセンスにしか行けないくらいの距離にある赤坂カントリーハウスで、生ビールと少し焼いた温泉卵が乗ったカレーを頼む。 (いつだって物差しは自分自身なのだ) 30人も入れば満席になってしまうような…

アルコール度数6%のエッセイ

人が失敗するとき、はたまた黒歴史と呼ばれる事柄の脇にはある程度決まって酒がある。 クリスマスに馬鹿げたケバケバしい電飾が摂理とも呼べるくらい決まりきった形で対になっているのと等しいくらいに切っても切り離せない関係性である。 そんな少しふわつ…

固く握った手

僕はこの半年でたくさんの手を見た。 とりわけ固く握った手をよく見た。 ちょっとだけそれについて書いてみようと思う。 バラバラに書き留めていたので纏まりがないね。 今現在、ニューヨークの地下鉄で左手を固く握っていて、その手の内側には手提げ鞄の紐…

アゲ武装

ここのところWi-Fiの調子が悪く、近場のカフェで仕事をすることが多かった。 その日の気分で西側のところへ行くこともあれば、やや南に歩く先にも足を伸ばした。 決まって頼むのはレギュラーミルクのラテとジャリジャリ音がするシナモンバンである。 日本で…

凍ったマンゴーと

禊のような歯ブラシを終わらせ、台所へ向かう。 昨夜の憂いを残したウイスキーグラスの匂いに胸を少し詰まらせながら、 乾燥機から洗濯物を取り出し忘れていることを確認する。 そしてそのまま蓋を閉じる。(見なかったことにするのだ、決死の思いで布団を後…

失い続けていく中で

こちらロンドン、17時。快晴。 シチリアのような黄色い太陽も、 貴方のような丸い暖かさもまだないが、 確かに陽の光は長く射し、 人類の不安はどこ吹く風、 静かにしかしながら確実に春を迎え、 夏への歓びを迎え入れようとしている。 もう数える事も諦めた…

シミ

ひっぱり出してきたスウェードのジャケットからは丸い独特の匂いがする。まさか8月に袖を通す事になるとは思ってもいなかった。まして内にはモヘアのカーディガンを羽織っている。とりわけ夏に思い入れが強い方では無いのだが、それでもクローゼットを眺める…

日曜日

友人宅からの帰り道、暗がりに沈む太陽をみた日曜日。おろしたてのスニーカーを得意げに見下ろしながら思う。この一歩が何処へ続いているのかを。貴方がそこに居て、僕がここに居る。生まれ落ちる命がある分、消え去る命が須くある。この赤茶の煉瓦が積み上…

マーチングバンド

ピアノ三重奏の静かな冬の終わりもマーチングバンドの行進のような春も思い描いていたものは何ひとつ聴き取れないまま、初夏に入ろうとしている。あるいは今年の夏は高気圧な入道雲に思うアコースティックギターのアルペジオも夜に聴く暑苦しいソウルも感じ…

退屈日記

退屈である。実に退屈である。椿が咲き誇っては枯れていく中、僕は退屈している。カラスすらも春仕様の鳴き方になる中、僕は退屈している。君が虚像に向かって糾弾している中、僕は退屈している。こんなに僕は退屈しているのに、何にそんなに怒っているのか…

英国退屈日記『話し方』

食べ方、書き方、話し方。人の品性が露見する3要素だと僕は思っている。因みに1つも自信はない。特に書き方なんてものは僕は下の下である。習字を習わせてくれていた両親とその先生には申し訳が立たない。原因は明らかで、持ち方が汚いのである。何度も直す…

なぞる

1泊2日の出張を終えて帰宅すると、カサブランカの花が咲いていた。むんと立ち込める花の香りは、黄味を帯びていて、誰も居なかった家の静けさを誇張した。僕はソウルライターの写真集”In my room”を取り出してページをめくる。乾燥した指を切らないようにペ…

英国退屈日記『交通機関』

等間隔に並んだ電灯が一定の速さで向かってきては過ぎてゆく。窓は反射して僕の顔を映す。流れる時間にも規則性があり淀むことがない。これらは僕にケミカルブラザーズのMVを思い起こさせる。確か監督はミシェル・ゴンドリーであったか。仕事上移動の多い僕…

自省録

急須にお湯を注ぐでしょ。そうするとお茶の葉がぐるぐると回って中身が慌ただしくなるんだ。それが下にゆっくりと沈んでいって、そこからだいたい1分くらいだね。じっと待つの。寂しさを鎮める時に僕がイメージする事である。こんな話をするのは恥ずかしいし…

パリ退屈日記:2

許された40分そこそこでランチを食べに、近くのフレンチに入った。店内ではベートーヴェンの交響曲第2番が流れている。クラシックを聴かない僕でも、この位は分かるのだ。ZAZEN BOYSでも流れれば良いのにな、と思いつつ、鴨のソテーと炭酸水を頼む。ここは立…

拝啓、何方様

お元気ですか。僕は元気です。ロンドンの12月は、小姑のような細雨と、新婦のような突然の豪雨、それに加えて角のある寒さが続いています。乾いたテレキャスターの音に、身体を揺らした夏を恋しく思います。これが今年最後の手紙になると思います。思えば手…