こちらに来てからというもの、
僕の朝食といえば、
決まってクロワッサンとホットラテ。
ホルボーン駅にあるチェーン店で買うと決めている。
ラテなんかは既にミルクがカップに入れてある状態で常時4つは待機しており、それに10秒でドリップされるエスプレッソを入れるだけ。
一方クロワッサンはどうかというと、
ビジネスホテルのシングルルームのような味だ。
元来、時間にゆとりを持てない性分であるから、速さに重きをおくこの店とは相性がいいのだ。
所詮朝食なんてものは、血糖値を上げる作業である。
サウジアラビア人のマハメッドは
いつも遅れてやって来る。
どうして遅れたのか、と尋ねると
『朝食を長く取りすぎた。』と言うのだ。
彼らの国では、寝坊した時に
この言葉を用いるらしい。
実際に朝食は取ったのかと尋ねると
当たり前だろ、朝メシを食わなきゃ
外には出れないだろ。
と返して来た。
僕が予定に遅れない為に、
蛇の体温の様なラテと小麦の成れの果てを
胃に詰め込んでいる間、
彼はゆっくりと紅茶を啜っていたのだろう。
今夜は手の込んだ料理を作ろうと
心に決めたのだ。
"失敗作の半熟卵は今日も固茹で
そんな時はこうするのさって
頭で割って
美味しそうに食べてくれるの。"
朝のメニュー/渡辺真知子