英国退屈日記:写真

"写真は過去しか撮れない、シャッターを押した瞬間にそれは過去になるからだ"

誰の言葉だったか忘れたし、

このような言い回しであったかすら

いまいち自信がない。

数人だけれど、写真家の友人知人がいる。

この時代、誰でも簡単に写真が撮れ、

職業写真家はかなり曖昧な職種に

なってきていると思うが、

それでも彼らの撮るそれらは、

僕が撮る思い出写真等とは、

全くの別物である。

写真に現実味があり(写真が現実を切り取るものという定義を踏まえた上で尚)、

素人の僕でも感じられる彼らの感情がある。

 

マーティン パーと言う

イギリス人の写真家が居るのだが、

彼はマグナムと言う世界一の写真協会の

重鎮でストリートフォトグラファーの

生きる伝説的な存在だ。

主に労働階級に当たる中下層階級を

撮り続けていて、

中でもthe last resortの皮肉っぷりは、

物議を醸したが

流石の島国イギリス、

日本人と共通する感性があり、

彼の写真集の中で僕が最も好きなものだ。

ファッション写真も時折手がけ、

最近では確か

グッチのコレクション写真を撮っていた。

そんな彼のサイン会が先日、

オックスフォードサーカス駅に位置する、

ザ フォトグラファーズ ギャラリーで行われた。

東京で言うところの、

東京都写真美術館的な場所で、

さして大きい建物ではない。

生きているうちに(彼が)、

会えるとは思っていなかったし、

そもそも会えるような人ではないので、

イギリスに来てからも、

特段意識はしていなかったのだが、

知人にたまたま教えてもらい、

サインを貰いに行った次第である。

ブルックリンラガー(何故アメリカの銘柄なのかは今だに謎である)を片手に、

割と酔った様な面構えの彼は、

浅草あたりで昼の1時頃から呑んでいる、

職業不明の高齢者に差し掛かった

中年者のそれとあまり変わりがなかったのだが、

僕は緊張のあまり、テーブルに

三つ指をついて彼が書き上げるのを待っていた。

 

 

僕は家宝と呼べるような物を、

あまり持ち合わせていないが、

もし僕が、40年後に松濤辺りの

地下一階から成る三階建の

一戸建てに住んでいたとして、

ひょんな事にお宅訪問系のテレビ番組で

取り上げられることが

あったとしたならば(将来の事は未定であるし、誰にも何も言わすまい)、

間違いなくこれはリポーターに紹介すると思う。

 

 

ロンドン、パリ、ニューヨーク辺りの

都市だと、出会い方はどうであれ、

意外と会いたい人に会えてしまうような気がする。

現に僕もこの2ヶ月弱で、

会いたい人にすでに3人会った。

 

 

話は少し戻って写真についてだが、

僕はスタジオ写真よりも、

スナップ写真を好む。

日本人で言えば、

篠山紀信よりも、

森山大道や、荒木経惟が好きだ。

アラーキーのセンチメンタルな旅は

特に好きで、前回作った写真集も

彼のオマージュ的な雰囲気で作った。

海外の有名どころで言えば、

ブルースウェイバーのように、

作り込んでいく写真よりも、

マーティンをはじめとして、

ジョエルマイロウィッツや、

ソールライターのような、

ストリートスナップでかつ、

色彩が効いているものが好きだ。

 

専門家ではないので、

詳しくはわからないが、

日本人の撮る写真はどちらかというと、

優し過ぎたり、逆に寂し過ぎたり、

景色に既視感がある為、

やけに生々しかったりするのだが、

先ほどあげた彼らの写真にはどこか、

希望があるように見える。

ソールライターの撮る、

本来は悲しげな写真にも、

原色が効いているせいなのか、

街の雰囲気に馴染みが無いせいか、

適度に優しく、眺めていてホッとできるのだ。

僕の業界で言うと、

イッセイの服がそれに当たり、

ヨウジの服が少し寂しげに見えるようにだ。

 

この話は後日詳しくしたいのだが、

いずれにしても、作り込んだものより、

受け手がどう感じるか、

『余白』のあるものが好きなのだ。

酒が入ると決まって

この話をしてしまうのだが、

余白がないものには、やはりそそられない。

この言葉は、『無駄』とか、『含み』と

耳障りは似ているが、全く違うものなのだ。

『空気感の多様性』と置き換えてみると、

少しわかりやすいような気がする。

 

 

なんだか、

最近書いていて思うのだが、

僕は日記を書きたいのに、

自分の思考や理念ばかりになってしまって、

取り留めのない雑記になってしまっている気がしてならない。

ゆくゆく、

日記なのか、書き殴った雑記なのか掴みどことのない

この「翻せ、ベーコンエッグ」を一冊に製本しようと考えているのだが、

これはいくら僕がサインを書いたからといって

誰かの家宝になる日は訪れなそうである。

 

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"カメラの中の3秒間だけ僕らは

突然恋をする そして全てわかるはず

本当のこと何も言わないで別れた

レンズ放り投げて そして全て終わるはず"

 

カメラ!カメラ!カメラ!/フラッパーズギター