一体、一生のうちに
何個のベットに寝るのだろう。
思い返してみれば、
中学に上がる際に祖父に買ってもらった
シングルベッドに皮切りに、
クッションがたくさん置いてあるベッドや、
下に収納の付いているベッド、
製造過程で不備があったとしか
思えないような底なしに沈むベッド、
糊の効きすぎたリネンに、
シングルサイズ以下の幅しかないベッド。
人生の3分の1をもベッドで過ごす僕(ら)は
彼らと分かり合える日が来るのだろうか。
人の家に泊まった翌日の朝の、
結局彼らと分かり合えなかった、
あのなんともいえない気だるさを思い出す。
今僕はダブルサイズのベッドから起きたばかりで、
二つ配置された枕は各々硬さが違うが、
いずれにせよどちらも柔らかすぎる。
ドアの反対側の壁に配された窓からは、
朝日とも夕日とも取れるどっち付かずの空が伺える。
僕が1日で1番好きな瞬間である。朝の7時だ。
起きてまず、洗面台に向かい、日本のそれよりも性能のいいシャワーで頭を濡らす。
ポイントはここで顔も洗ってしまうことだ。
5色使いの発色のいいビーチブランケット位はあるバスタオルで頭を拭く。
日本から持ち込んだ使い慣れた歯磨き粉を、
これまた使い慣れた歯ブラシに大豆2個分くらいを載せる。
右上奥歯から磨き始める。
それを終えたら、椿油を少々左手に取って、
濡れたままの髪に馴染ませる。
普遍的なセンター分けに髪を撫でつける。
パジャマを脱ぎ、即興で決めた服に着替える。
Tシャツをめくり、香水を3回振りかける。
靴の色に合わせて腕時計を選ぶ。
読みかけの文庫本を持っていくかどうか迷い、
重くなるから思い、置いていく。(後に電車の中で後悔する。)
二重鍵のドアをゆっくりと開けて、ゆっくりと閉める。
エレベーターに乗り込み、0階を押す。
右手に見える朝日を横目に、
少し大きめの歩幅を意識しながら、
8分程かけて駅へ向かう。
明日から1週間ほどかけて、
合わせて3つのベッドに寝ることになる。
行き先は、ベルリン、アムステルダム、パリ。
仕事7割、遊び3割とどっち付かずの旅だ。
大体にして、
いつも僕はどっち付かずである。
どの都市のベッドと分かり合え、
どの都市のベッドと仲違いするだろうか。
朝日を見出す事は出来るのだろうか。
"目覚めはなぜか悲しいほど爽やかで
着替え始めた君は忙しそうで
ベッドの中から好きだよって囁く"
床には君のカーディガン/THE SALOVERS