パリ退屈日記

この日記はしっかり書きたいと思う。

 

当時大学四年生であった僕は、第一志望の最終面接を受けるべく、

前日の夜から大阪に向かっていた。

着いた途端に具合が悪くなった。

理由は明快で、大阪が合わないのだ。

もちろん面接への緊張があったことは認める。

しかし、大阪に着くといつもこうなるのである。

空気が膨張して胸の辺りを締め付けるような圧迫感と、

理由のよくわからない焦燥感に駆られる。

結局僕は、この会社に入る事を選ばなかった。

 

確か小学四年生の頃であった。

祖母と母、僕の三人で大阪に遊びに行った事があった。

そこで僕が見たものは、道頓堀あたりにたむろっている浮浪者や、

険しい顔をして駆けていく赤いピールを履いた若い女性、

威圧的に話す(そう聞こえただけだが)タクシーの運転手だった。

また、テーマパークのチューブ型のジェットコースターだった。

当時の僕にはこのジェットコースターに乗ってしまえば、

2度と出られないような気がしたのだ。

僕の祖母は浮浪者等を見ると五千円くらいあげてしまう人だった為、

たくさんの浮浪者を見て居た堪れない顔していた。

祖母の不安げな顔を見た僕は、

水の中に暗い緑色の絵の具を垂らしたように、

あっさりと同調していった。

その直後に僕らはうどん屋に入って、

僕はきつねうどんを頼んだ。

3分で茹で上がる簡易の麺に、油揚げと1片のかまぼこが

質素に乗っていた事を覚えている。

 

 

その後僕らは予定していた飛行機で帰る事が出来なくなった。

理由が思い出せないのだが、飛行機の欠航か何かだったと思う。

その夜はビジネスホテルに泊まる事になるのだが、

慣れない土地で動揺していた僕は、悪い夢を見てうなされていた。

アニメのコナンの夢を見ていたのだが(なぜここまで覚えているのか僕にもよく分からない)、要するに人が死ぬ夢を見ていたのだ。

その夜、自宅で待つ父に電話をした事もよく覚えている。

今考えると、大阪へのある種の拒否反応はこの時から始まっていたのだと思う。

 

仕事でも何度か大阪は訪れているのだが、

毎回、他の出張先に比べてもかなり疲弊してしまうし、気が立ってしまう。

大阪が大阪である事を自覚していて、その他のものをピンセットで

しっかりと分別しているのだと思う。

僕はそのつままれている感覚をどうしても感じてしまうのだ。

 

今回の訪問でパリは3度目となる。

3回とも同様に前述した大阪に行った際の心持ちになってしまった。

パリもパリで自身がパリである事をはっきりと自覚していて、

やはり僕はつままれてしまう。

肌に合っていないのだなと思う。

今回訪れた国でいうと、ベルリンにはその感じを覚えなかった。

 

 

今回パリでは、世界で一番大きい生地の展示会に行った。

今回の出張的な旅行の最大の目的である。

仕事の詳しいことは述べてもつまらないので割愛するが、

はっきりと今僕がやってゆこうとしている事が、

いかに難しくて、どれだけ僕が小さいのかを自覚する事が出来た。

作る物や仕事の質については、全く問題視していない。

そうではなくて、多すぎるのだ。

服が世の中に多すぎる事は見ての通りだが、

その供給過多の洋服よりも生地がありふれているのだ。

よく考えてみれば、それはそのはずである。

洋服は生地がなかれば作る事が出来ない訳であるから。

そんな中で、僕一人が海外に飛び込んで、

何かできる事があるのだろうかと感じた。

多分何もないと思う。

悲観的になっている訳ではなく、

あくまで客観的に観てだ。

 

次の日(今日であるが)、マレ地区と呼ばれる

セレクトショップやブランドのお店が集まったいわゆる

おしゃれ(好きな言葉ではない)な場所を回った。

そこで、僕が好きなブランドの服を見た。

別に日本でも見られるブランドなのだが、

妙に今日はそれらを見て興奮した。

どうしても絶対に彼らに生地を使って貰いたいと思う。

僕は彼らの作る服が好きだ。

僕に何ができる訳でもないけれど、

その気持ちがあったなと思い出した。

おそらくこれだけは他の人よりも強いと思う。

久しぶりに初心のようなものを感じ、

昨日ボコボコにされた反動もあって、

今僕は、攻撃的な感情を持ち合わせたやる気に溢れている。

 

そして今回の旅行で思った事は、

ロンドンの次がもしあるとするならば、

ベルリンに住みたいという事だ。

感覚的なものなので説明できないが、

間違いなくいい街だと思う。

ここでは鋭利な意志を良くも悪くも感じる事が出来た。

だけれど、おそらく、なぜだか、

僕の意志とは全く別の物の働きかけによって、

パリに住む事になりそうな予感も今回の出張で感じた。

初めの方から日記を読んでくれている人なら分かる(はずの)

”抗えない大きな流れ”の一つとして。

 

 

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”夢にまでみたフランス 凱旋門をくぐって 巴里

目指すはモンマルトル パリジャンと待ち合わせ

 

冷めたブレンド尻目に カフェラテの泡にうずもれて

いつ別れを切り出そうか 煙草で占ってた

 

206番来たから とりあえず後ろに座った

バス巴里まで飛んでゆけ ラララ シャンゼリゼ

 

京都の大学生/くるり