拝啓


梅雨空で蒸し暑い日々が続く

日本と聞いておりますが、

いかがお過ごしでしょうか。


(謎の食欲不振、唐突な肌荒れ、隠し切れない足腰の衰えを除いて)僕は元気です。


ロンドンでは、夏になりきれない

なんとも歯痒い日々が続いており、

僕自身も過去は捨てきれず、

今をも生きれず、

果てのない未来に想いを馳せる日々を

送っております。


ロンドンだって

どうせ夏が来ないのであれば、

期待などさせずに、

いっそのことずっと冬であるべきなのでは、

と思うわけです。

日本のように、冷夏だからといって

ビールの消費量まで冷え込むような

ヤワな酒飲みではロンドン市民はないのですから。



7月は文月とも呼ばれており、

折角だからと筆を執った、

実際には画面上で指を左右上下に

動かしている次第であります。


手紙を書くのは思い返すと久方振りで、

誰に書くわけでもなく、

宛名のない手紙をポストに入れるような事は

今回が初めてであります。


手紙というと思い出すのが、

岩井俊二監督の、

Love Letter』でありますが、

主人公の中山美穂の純粋無垢な出立ち、

舞台である北海道は小樽の一面銀世界が、

1人の女性のもう2度と春を迎えられない儚さを暗喩しているように僕には感じました。

僕も文通はしてみたいなと思います。

ペンフレンドなんて素敵です。





いつの間にか、

こちらに来て半年が過ぎ、

慌しい割には、同じような日々を

過ごしております。

コインランドリーで、

小一時間忙しなく回り続ける

洗濯機を見つめ、

2000円程を片手に握りしめ、

毎週末、花を買いに行きます。

片手に収まっていた紙幣が、

両手でも抱え切れない程の花束になって返ってくる訳であります。

夜は夜で、どうせ磨いたところで、

薄汚れたロンドンの道のせいで、

すぐに汚れてしまう革靴を

せっせと磨いております。

その際、いつも何かしらの音楽をかけている訳ですが、最近のお気に入りは細野晴臣さんの『花に水』です。

もしよろしければ聞いてみてくださいね。

花は裏切る事なく死を

身近に感じさせてくれますし、

革は死んでもなお、輝き続ける訳です。



そんな変わらぬ日々ですが、

たまに旅行に行きますし、

セールとなれば、何か1つくらい

買ったりもします。

いろいろな友人とも遊びます。

ビザの兼ね合いだったりで、

よく人が入れ替わるのがロンドンです。

仲良くなった頃には、

みんな帰ってしまう。

僕はまだまだロンドンに居る事に

なりそうなので、

常に見送る側にあります。

船の停泊場のような気分です。

"行く春や一期一会の旅烏"

漱石の句ですが、まさにこれに尽きます。

それでも、今では携帯があるお陰で、

離れてしまっても連絡が

取れる訳でありますが、

あまりに夢がない話で、

連絡を取り続けられるかが、

関係性を測る1つの尺に

なってしまっている気がして、

僕にはどちらの方が良いのか、

わかりません。



もう少し本当は話したい事が

あったのですが、

手紙を書くといつも、

話したかった事ではないことを

話してしまいます。


9月には1度日本に戻る予定でいます。

もし良ければ是非お会いしましょう、

その時を楽しみにしています。


梅雨も明けずじめっとした日々が、

もう少し続くようですが、

どうかご自愛下さい。


敬具


f:id:s396man:20190703104931j:plain

p.s.

いつもあなたが読んでくださっている

このブログのタイトルですが、

覆せ(くつがえせ)、ベーコンエッグでも、

訳せ(やくせ)、ベーコンエッグもありません。

正しくは翻せ(ひるがえせ)、ベーコンエッグです。

僕としても、タイトルなんぞ

なんだって良いのですが。