自省録


急須にお湯を注ぐでしょ。

そうするとお茶の葉がぐるぐると回って

中身が慌ただしくなるんだ。

それが下にゆっくりと沈んでいって、

そこからだいたい1分くらいだね。

じっと待つの。



寂しさを鎮める時に

僕がイメージする事である。

こんな話をするのは恥ずかしいし、

今年最初の話がこんなもので良いものか

甚だ疑問であるが、

煩悩は早めに口にして無くしてしまうに限ると相場が決まっている訳である。



僕は基本的に寂しがりで、

ただ1人っ子であるから、

1人の時間が無いと生活が難しい

なんとも我儘な性格をしている。

朝、目が覚めて澄んだ気持ちに

感じる心持ちが大抵、寂の類である。

朝は決まって白湯の替わりに、

お茶を煎れるのだが、

くるくると茶濾しの中で回る茶葉と同様に

気持ちを鎮める訳である。


特に異国に居る人間は恐らく須くこの手の気持ちを感じるのではないだろうか。

そうで無い人がいれば彼らは恵まれていると言って良いだろう。

感じない、知らない、分からない方が

世の中幸せな事が多い訳である。

個人としてはだ。


但し、感じてしまい、知ってしまい、

分かってしまった人のみが

他人を思いやる事が出来るとするならば、

僕は後者を取ろうと思う。

良く人に君は生き辛そうだねと言われるが

それで良いのである。

シナトラが歌う華やかな個人主義

マイウェイより、

藤圭子が歌う含みのあるそれの方が

僕に合っているし、いつかはあんな風に

歌えれば本望だなと思う。


こちらに来てからというもの、

ホームシックの日本人をよく見かける。

彼らに言いたい事は、

何をしに此処に居るのかと言う事だ。

寂しくなる事なんて僕にもあるし、

当たり前の事である。

異なる環境下で心許せる人も近くにおらず、

自らの意思で調整出来ないことばかりで、

さぞかし大変であろう。

しかしながらそんな事は日本を出る前から

折込済みでは無かったのだろうか。


例えば貴方がワーキングホリデーのビザで

こちらに居るとする。

このビザは定員が毎年1000人と

決まっていて抽選なのだが、

という事は此処には

毎年落ちている人がいる訳である。


貴方が帰りたいと、

やりたい事のやり方がわからないと

1人ベッドで嘆いていられる裏には、

もしかすると貴方より明確に、

覚悟を決めている人達がいるかもしれない。


そもそも抽選というやり口が良く無い。

このビザは30歳迄しか応募出来ない。

30歳以下の2年間が

どれ程貴重なものであるか。

数を半分に絞ってでも、

面接形式で合否を決めるべきである。

さもなくば受かった当人達も、

外れた彼等にもそこに責任感が生まれない。

この責任感、言い換えるならば

ある種の緊迫感が

心の何処かに無いといけないのだと思う。


海外に来たから全てがリセットされるなんて都合の良い事はまず無い。

寧ろ逆である。

今までの全てを駆使しても尚、

半分程しか力を発揮できないのだ。

先程のビザで言えば、

この2年間で何かを成せる人なんて

殆どいないだろう。

証拠としてワーキングホリデービザから

就労ビザを取得している人は、

僕は3人も知らない。



つまりである、

陳腐な言葉になってしまうが、

皆平等に大変であるし、寂しい訳である。

此処に貧富の差も、男女の差も無い。

世の中で1番平等な価値観かもしれない。

今年の書き初めでも書いたのだが、

大切な事は諦念である。

成ろうと思ってもやろうと思っても

出来ない事は確実に存在する。

大きな流れに抗わない事である。

其れ等を1度横に置いて、

無駄なものを諦めた後に、

自ずと見えてくるものが

あるのでは無いだろうか。


これを初めに読む人は僕である。

僕の僕による僕のための自省録である。

人にはマルクスアウレリウスの

本物の自省録をお勧めしたい。




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なにが君のしあわせ なにをしてよろこぶ

わからないままおわる そんなのはいやだ

忘れないで夢を こぼさないで涙

だから君はとぶんだ どこまでも


アンパンマンのマーチ/ドリーミング