英国退屈日記『交通機関』


等間隔に並んだ電灯が一定の速さで向かってきては過ぎてゆく。窓は反射して僕の顔を映す。流れる時間にも規則性があり淀むことがない。これらは僕にケミカルブラザーズのMVを思い起こさせる。確か監督はミシェル・ゴンドリーであったか。



仕事上移動の多い僕は、

車窓を1枚隔てた景色をよく眺める。

バスから見る景色、

高速鉄道からみるそれ、

同じ場所でも全てが違って見える。

移動する速度が遅ければ遅いほど、

景色は質量を持つ物体として

有機的に映えるのだ。

こちらの移動手段といえば、

電車、バスに加えて、

タクシーの代わりにウーバーを使う。

日本だと高いがこちらでは

タクシーよりも俄然割安である。


友人と食事をした後や、

出張の際など、

よく僕はウーバーを使うのだが、

地域性が出てこれがまた面白い。

ロンドン内でも、西の高級住宅街で

拾うウーバーではクラシック音楽が流れ、

僕の住む東の地区では

安いEDMが車体を揺らす。

パリではラジオが掛かっていることが多い。


運転手は中東系かアフリカ系と、

自国の経済がまだ成熟していない国が多い。

大概が食い扶持を探して来たか、

前の仕事を辞めて比較的楽で

安定した稼ぎを求めている者である。

殆どの運転手が車好きで、

即ち親日家が多い。

自然と話が弾む訳だ。

しかしながら、

彼らは2通りに分けることができ、

勿論それは運転が上手いか下手かである。

マニュアルすら運転出来ない僕が言うのも

どうかとは思うのだが、

運転が雑な人と爪が伸びている人は

基本的に何をしてもダメである。

慮る気持ちが欠如していると言えるだろう。

"乱れた生活で口説かれても嫌"である。


これはロンドンバスでも同じことが言え、

特に2階建のこれらのバスはちょっとした急発進急ブレーキで前後に大きく揺られる為、

三半規管が弱めな僕には(こうして書いているとつくづく軟弱だなと感じる)命取りである。

こうして下を向きながら読み書きをしていると、たちまち酔ってしまう。今現在これを書いている間も少々気持ちが悪いのである。


最近思うのだが、日本があそこまでの発展を遂げたのはインフラの質の高さに起因するのではないか。

こちらにいて痛感することは、何をするにも日本の数倍の時間が掛かると言うことだ。

交通機関が日本ほど整備されていない為、寧ろ日本ほど整備されている国は無いのであろう、渋谷から三軒茶屋辺りまでの移動ですら3040分掛かる訳である。

日本では1日に45件は詰めれば回れていたがこちらではまず不可能である。

配送等のインフラもまず質が悪い。

誤配送なんてものはざらであるし、

追跡番号をつけていてもなお、

行き先不明の紛失分が出る。

全ての事象をテンプレート化し、

こちらサイドで整備しない限り、

日本での売り上げを越えることは、

到底不可能であるなと感じている。

大英帝国最盛期の

重厚高大の工業産業であった

第一次世界大戦前後から、

現代の細かなサービスが必要とされる

軽薄短小の産業ではまず生き残っては

行けないだろう。

"グレート"ブリテンとは皮肉なものである。


少々愚痴っぽくなってしまったが、

これは特別イギリスだけではなく、

他のヨーロッパ諸国でも同様だ。

いかに日本のサービスが整備されていて、

僕らとしては有難い事ではあるが

過剰であるかが身に染みてわかる。

アスクルがこちらに支店を出そうものなら、

たちまち破綻である。




息子がいるからと実家の運送会社のロンドン支店をなんて冗談でも言っていた両親よ、

僕はお勧めしません。







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"こんな夜におまえに乗れないなんて

こんな夜に発車出来ないなんて

こんな事いつまでも長くは続かない

いい加減明日の事考えた方がいい"


雨上がりの夜空に/RCサクセション