英国退屈日記『日曜日』

日曜の朝、正確には11時半。

平日に日本と深夜の3時から打ち合わせさせられる僕からすると週末のこの時間は朝なのである。

このままビールでもあおってまた寝てしまおうかと思う気持ちを振り払って着替える。

ほぼ習慣化されたフラワーマーケットに向かう。

 


イヤホンを嵌めて小沢健二を流す。

僕の中では彼は秋の人である。

スチャダラパーが絡むと一気に夏にはなるのだが。

 


歩いて15分くらいの駅に向かう途中は並木道になっていて、背の高いスズカケノキが等間隔で植えられている。

ロンドンで僕が最も好きな道である。

この道の唯一の欠点とすれば気の利いたコーヒースタンドが無いくらいである。

落ち葉が積もっていて、無作為に履いてきたエアフォース1にへばりつく。

 


もうすでに僕はPコートを着ていて、中にはウールのカーディガンを仕込んでいるというのに、目の前を歩く女性はタンクトップである。

装いに正解があるとすれば間違いなく僕の方がそうである。に、違いない。な、べきである。の、はずである。

 


その駅には簡素なコーヒースタンドがあって、いつもそこにいる店員の人生を考えてみる。おそらく決まりきった時間に、出退勤をして、電車が来て去っていくのを数百回見送れば1日が終わる。

こんなつまらない生活僕は無理だなって話したことがあって、そうしたら毎日同じ人と顔を合わせて、あれ、髪切ったんだね。とか最近見なかったけど元気だったかい。だったり何気ない会話が半年続いてそこから恋が始まるかもしれないって人に言われたことがある。

素敵な考え方の持ち主だし、もしかしたらそういう生活もいいのかもしれない。

街角でぶつかって飲み物をかけてしまうしがない本屋のオーナーが女優と恋に落ちることもあるわけだし(ノッティングヒルの限られたエリアの、しかもまた映画の中では)、無い話ではないのだ。

 

 

 

 


マーケットについてひと通り屋台を物色する。12月になるとどこに寄ってもポインセチアとコットンツリーの押し売りになるわけだが、今日はまだアマリリスが少しあるくらいで、まだクリスマスには猶予があるみたいだった。

 


八重咲きの薔薇を1束と、マム(和名は菊)を買って帰る。

 


今日何も摂っていないことを思い出して、帰り道にハムと胡瓜のサンド、ラテを買って帰る。ボゾボゾしたパンに、粒マスタードとハムの塩っ気しかないいかにもイギリスなサンドに嫌気が差しながら薄いラテで流し込む。

 

 

 

また同じ道を逆の順番を経て家に着く。

 

 

 


来世のの夢は鳩サブレーの御曹司か、酒蔵の旦那って決めているのだが、スズカケノキの道でコーヒースタンドをやるのも悪くないかもしれない。

 

 

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"きっと彼女は涙をこらえて

僕のことなど思うだろ
いつかはじめて出会った いちょう並木の下から
長い時間を僕らは過ごして

夜中に甘いキッスをして
今は忘れてしまった たくさんの話をした
もし君がそばに居た

眠れない日々がまた来るのなら?
弾ける心のブル−ス 一人ずっと考えてる"

 

いちょう並木のセレナーデ/小沢健二