25歳と1ヶ月の頃合いに渡英して既に三十路をすぎ、2週間前にドアに挟んだ中指は未だ痛んでいる。
時間は歳を重ねる毎に早くなるのにも関わらず、傷の治りは遅くなるのである。
7回目の冬、ビタミンDを欠いている僕たちは太陽を求め彷徨う放浪者だ。
太陽の国スペインやイタリアから来た移住者達は軒並み性格が暗くなり、いつの間にかイギリスの曇天に似合う顔つきになる。
愉快な話である。
そんな傷の治りの遅い、
陰った顔の放浪者の1人である僕は昨年結婚をした。
唐突な話に聞こえると思うが、唐突でない事象が人生にあっただろうか。
唐突におたふく風邪になり、唐突に身長が伸び、唐突に結婚するのである。
全て突然現れたものに思えるが、本当は全て水面下で周到に準備されているのである。
縁というものはそうなのだ。
退屈な英国生活を掲げて始めた僕の日記だが、一辺の光が射したらしい。ビタミンDを求め放浪している僕にも遂に日向が出来たのである。
現に彼女はそのような人間で、
ビタミンDの塊?一筋の光?
まあとにかくそんな人だ。
綺麗に生えた富士額がそれを物語っている。
僕が革靴の傷を気にして、
デニムの皺を数えている間に(最近は顔の皺も数えるようになってしまった)、
出鱈目な鼻歌を唄いながらご飯を作り、
大きな口で食べ、
アライグマよりも慣れた手つきで汚れた食器を処理している。
僕が持っていないものを彼女は全て持っていて、彼女が持っていないものを少しだけ僕が持っている。
家族になるとか添い遂げるとかそれが何なのか、何の意味を為すのか、難しいことは僕には分からないし、きっと今分かっているそれは歳を重ねると共に変化していくのだと思う。変化する事だけは不変なのである。
ビタミンDとは
“ビタミンDは骨を丈夫にするために必要なホルモンである。 しかし、日本人の8割でビタミンDは不足しており、4割で欠乏していると言われている。体内生成が難しく、日光など外的接種で得られる。精神的な安定、生活の質を向上させることが期待出来る。”
人生の扉/竹内まりや
" 満開の桜や 色づく山の紅葉を
この先いったい何度 見ることになるだろう
ひとつひとつ 人生の扉を開けては 感じるその重さ
ひとりひとり 愛する人たちのために 生きてゆきたいよ
君のデニムの青が 褪せてゆくほど 味わい増すように
長い旅路の果てに 輝く何かが 誰にでもあるさ"