2020-01-01から1年間の記事一覧

シミ

ひっぱり出してきたスウェードのジャケットからは丸い独特の匂いがする。まさか8月に袖を通す事になるとは思ってもいなかった。まして内にはモヘアのカーディガンを羽織っている。とりわけ夏に思い入れが強い方では無いのだが、それでもクローゼットを眺める…

日曜日

友人宅からの帰り道、暗がりに沈む太陽をみた日曜日。おろしたてのスニーカーを得意げに見下ろしながら思う。この一歩が何処へ続いているのかを。貴方がそこに居て、僕がここに居る。生まれ落ちる命がある分、消え去る命が須くある。この赤茶の煉瓦が積み上…

マーチングバンド

ピアノ三重奏の静かな冬の終わりもマーチングバンドの行進のような春も思い描いていたものは何ひとつ聴き取れないまま、初夏に入ろうとしている。あるいは今年の夏は高気圧な入道雲に思うアコースティックギターのアルペジオも夜に聴く暑苦しいソウルも感じ…

退屈日記

退屈である。実に退屈である。椿が咲き誇っては枯れていく中、僕は退屈している。カラスすらも春仕様の鳴き方になる中、僕は退屈している。君が虚像に向かって糾弾している中、僕は退屈している。こんなに僕は退屈しているのに、何にそんなに怒っているのか…

英国退屈日記『話し方』

食べ方、書き方、話し方。人の品性が露見する3要素だと僕は思っている。因みに1つも自信はない。特に書き方なんてものは僕は下の下である。習字を習わせてくれていた両親とその先生には申し訳が立たない。原因は明らかで、持ち方が汚いのである。何度も直す…

なぞる

1泊2日の出張を終えて帰宅すると、カサブランカの花が咲いていた。むんと立ち込める花の香りは、黄味を帯びていて、誰も居なかった家の静けさを誇張した。僕はソウルライターの写真集”In my room”を取り出してページをめくる。乾燥した指を切らないようにペ…

英国退屈日記『交通機関』

等間隔に並んだ電灯が一定の速さで向かってきては過ぎてゆく。窓は反射して僕の顔を映す。流れる時間にも規則性があり淀むことがない。これらは僕にケミカルブラザーズのMVを思い起こさせる。確か監督はミシェル・ゴンドリーであったか。仕事上移動の多い僕…

自省録

急須にお湯を注ぐでしょ。そうするとお茶の葉がぐるぐると回って中身が慌ただしくなるんだ。それが下にゆっくりと沈んでいって、そこからだいたい1分くらいだね。じっと待つの。寂しさを鎮める時に僕がイメージする事である。こんな話をするのは恥ずかしいし…