英国退屈日記『夏』

冬より夏の方が、

簡単に季語を思い付くのは何故だろうか。

甲子園に、線香花火に、市民プール、クーラー、

玉置浩二に、真心ブラザーズスチャダラパーに、TUBE

玉置浩二の田園なんて夏の季語にうってつけである。

その殆どが無いロンドンでは、

相変わらずビールにピクニック、

それになんとかバーベキューが加わったくらいだ。

殆どの電車にクーラーがついておらず、

2駅過ぎたくらいで、額に汗が滲む。

勿論、自宅にもクーラーは無い。

通勤サウナ電車からやっとの思いで逃れ、

アイスコーヒーを求めてカフェに入ると、

ホットしか置いてない。(事もある)

基本的にこちらは、

自らの要求のぶつかり合い

みたいなところがあるので、

わざわざ氷を用意しなければならない

アイスコーヒーを置くのは

煩わしいのだろう。


僕が見つけられていないだけかも分からないが、

食べ物だって年間を通して変わる事がない。

冷製のものなんて、ビシソワーズ位であろうか。

いつだか、池尻大橋と三軒茶屋の間を

ビシソワーズを求めて友人と、

夜中の1時くらいからさまよった事があった。

彼女は名古屋に就職して以降、

それきりのような気がするが、

元気でやっているだろうか。


彼此4.5年くらい夏の兆しが出始めてから、

夏が終わるまではスチャダラパー

サマージャム’95をエンドレスリピートしていた。1人で2パートを歌え切れるくらいに聞いていた。時代が時代ならばカセットテープは擦り切れていただろう。

しかし今年のは夏は全く聞く気がしないのだ。

これを聞くにはこちらは余りにも湿気が無さすぎるのだ。

日本のあのジメッとした感覚も、

もしかすると1つの風情なのかも知れないなと思う。

思うには思うが、もう日本の夏は2度と過ごしたくないのも本音である。

昨年なんかは遂に熱中症で病院に世話になったのだ。

ただここに来てやはり流石なのが、

山下達郎だ。

彼を筆頭に、日本のシティポップは、

今や世界的なブームメントになっており、

ヴァンパイアウィークエンドは細野晴臣をサンプリングし、テイラー,クリエイターは山下達郎をサンプリングしている。

マックデマルコなんかもシティポップを

明らかに影響を受けている。

台湾、中国ではマンドポップと呼ばれる、

シティポップをベースとしたジャンルまで

確立されていて、タイ出身のプムヴィプリット(一発屋感が否めないが)も、この系譜を辿っている。


8当分に切られた西瓜がなくとも、

夏の夜のドライブがなくとも、

これさえあれば、大体が夏になる。

ロンドンでも高気圧ガールには出会えるし、

アトムの子でも在り続けられる訳だ。


夏のドライブチューン、

僕的第1位はthe lagoons"California"だ。

これさえ掛ければ、

たちまち日本製の自家用車も、

左ハンドルのオープンカーになるし、

街灯もヤシの木に、

隣でブツブツ小言を言う彼女も、

前髪を掻き上げたLAガールに早変わり。

なんて雰囲気を味わえる。

はじめにあれだけシティポップを

持ち上げておいて、シティポップどころか、

邦楽でも無いのはご愛嬌である。



日本と違って

ロンドンの夏の良いところと言えば、

フェスが多い事、

そのフェスがフジロックの様に、

馬鹿げているほど遠くではなく、

街中の公園(と言っても代々木公園の何倍あるのだろうか)で行われる事、

日本でならメインアクト級のアーティストが

ゴロゴロといる事。

そのチケットが大体6000円くらいで、

日帰りで行けるのだ。


僕は洋楽も聴くのでいいのだが、

洋楽を聴かない人々にとっては、

何の風情もないただ日差しが強いだけの一か月だろう。

そう、こちらの夏は一か月で殆ど終わる。

その夏休みだって、南フランスやイタリヤ、

モルディブ等のリゾート地でみんな過ごす為、イギリスにいても、特にやることはないのだ。退屈である。

残念ながら、僕の業界に夢の8月まるっと休暇なんてものは存在しない。

9月にはレディースのコレクションが始まる為、8月は普通に仕事であり、ショー準備の大詰めを迎えたブランド達の突然の要求に付き合うことになる訳だ。


8月はブルゴーニュで、ワインソムリエをつけて34日のワインセラーを周る旅を。

なんて友達と話していたのだが、

到底実現しなさそうである。


"通勤サウナ電車"がこの夏、

僕の季語ランキングに

ランクインしない事を願う。

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“2000マイル飛び越えて迎えに来たのさ

Come With Me

連れて行っておくれどこまでも

高気圧ガール


高気圧ガール/山下達郎